日南市Xクラウドワークス『月収20万円のクラウドワーカー育成プロジェクト』

日南市Xクラウドワークス 『月収20万円のクラウドワーカー育成プロジェクト』
― 「創客創人」で挑む地方創生 ―
   
   
   
   
☆今回のキーパーソン
■﨑田恭平 宮崎県日南市長
1979年日南市生まれ。九州大学工学部卒業後、宮崎県庁に入庁。2013年、日南市長選に出馬し、当時全国で2番目、九州では一番若い市長として初当選。
■田鹿倫基 日南市マーケティング専門官 
1984年生まれ。宮崎大学を卒業後、リクルート事業開発室に勤務。2013年に日南市マーケティング専門官に就任。
   
   
   
   
①日南市が進める“マーケティング戦略”
   
――― 日南市がクラウドソーシングで解決しようとした課題とは
﨑田市長:日南市では地域の課題と企業のリソースをうまく組み合わせることによって課題解決をしていく、地域の強みと企業のリソースをうまく組み合わせることで強みを伸ばしていくことを目指しています。そこで、主婦の方にはスキマ時間がある、農家さんにも農閑期にはスキマ時間がある、それを活用しながら世帯収入を上げることができないかと考えたときに、クラウドソーシングの仕組みがフィットしたということです。
クラウドワークスさんと共同でのプロジェクトはマーケティング専門官である田鹿が中心になって進めました。
   
 﨑田恭平 日南市長
   
―――ユニークな 「マーケティング専門官」の役職。そのねらいとは
﨑田市長:私は宮崎県庁の職員だったとき、厚生労働省への出向で東京にいた時期がありました。そのときに当時リクルートで働いていた田鹿や、ベンチャー企業、NPOなどの宮崎出身者で勉強会を作りました。いつか宮崎に貢献しようという人たちの集まりです。
   
地方では「都会の民間のやり方はこんなだぜ」と上から目線で言う人は相手にされませんが、田鹿は能力も高く人柄も良い。私が県庁職員をやめて選挙に出るときに、もし自分が当選したら会社をやめて日南に来てくれとお願いしました。
まだ市長になれるかもわからないし、即答するとは思っていませんでしたが。
   
田鹿氏:2秒で即答しました。県庁の職員という安定した地位を捨てて、選挙で勝てるかもわからないのにそこにかけようとしている。
日南を変えたいという思いはすごいと思いました。
    
 田鹿倫基 マーケティング専門官
   
﨑田市長:市長に就任して1年後ぐらいに政府が「地方創生」を打ち出しましたが、地方には光るものがいっぱいあるけれど売り方が上手くない、必要なマーケットにそれを届けられていない、日本に「地方」はたくさんある中で差別化ができていない、それが課題だと考えていました。
   
無名の新人として出た市長選はかなり厳しい選挙でしたので、そこでありきたりのことを訴えてもほかの候補者と差別化されないと思い、マーケティングの考え方を繰り返し訴えました。
「日南には素晴らしいものがあって、それを伝えていくのがマーケティングです」という伝え方で、そういう仕組みを民間から取り入れて仕事を作り雇用を増やすんだと。「若い人が働く場所を作らなければ地方の再生はない」ということも言い続けました。
   
市長となってから具体的な仕組みは田鹿と作っていきましたが、「マーケティング専門官」はかっこいい名前ということで彼が自分で付けました(笑)。
   
―――前例がないことへの挑戦に慎重になることはないか
﨑田市長:最近よくこういった企業との協業がなぜうまくいくのかと聞かれますが、それは小さな成功体験、スモールステップを積み重ねてきたことだと思っています。クラウドワークスさんの前にも、『bokete(ボケて)』や、お惣菜を定期に仕送りする『おかん』とのコラボがありました。
   
日南市でbokete!!
   
『ボケて』は、当時の市の幹部からは「そんな馬鹿なことはやめて下さい」と言われましたが、市長室でお題の写真を撮ったり、我々に迷いはありませんでした。
   
プロジェクトの中には鳴かず飛ばずだったものもたくさんあります。でもそういうチャレンジをするのが大事だと思っています。やってみないと何が成功するかわからない。責任は私が負うからやってみようということです。
   
行政が失敗を恐れて慎重になるのは、予算化されたもの、すなわち市民の税金を使う事業は失敗できないということです。一方で実験的な企業とのコラボなら、やり方次第で色々なやり方ができる。企業側も自治体と組んだ実験的なプロジェクトなら自前でコストをかけて協力してくれることがあります。
そうすれば、職員の労力は割かれるかもしれませんが、失敗じゃないかという批判にはなりにくい。貴重な税金を使わずに挑戦でき、成功したらそこから広げていくことができます。
   
   
②「ヒロイン」から広がる人材育成
   
―――「月収20万円」を掲げたプロジェクトはどう始まったのか
田鹿氏:クラウドソーシング自体は、企業で働いていたときからインターネットを使って一般カスタマーから作品を募るという事業をやっていたこともあってよくわかっていました。
クラウドワークスさんと縁があり、色々お話をさせていただく中で何か面白いことができそうだという直感がありました。日南市には空き時間のある主婦の方がたくさんいる、そういう方たちがクラウドソーシングで仕事ができたらすごくいいと思いました。
   
﨑田市長:「月収20万」というのは、クラウドワークスの吉田浩一郎社長の発案なんです。
ちょうど日南市では、2014年11月に全国初の公設のコワーキングスペース「油津赤レンガ館コワーキングスペース」を開設する計画がありました。ここを主婦などワーカーさんが働く場所として活用できるということで、クラウドワークスさんとの提携がスタートしました。

このコワーキングスペースの開所式に吉田社長に来ていただいて、一緒にマスコミの取材にも答えたのですが、その場で吉田社長が「月収20万円のワーカーさんを誕生させます」と宣言されたんです。聞いた瞬間に良いと思い、「やりましょう」と答えました。

私もただクラウドソーシングをやりましょうといっても市民の皆さんには伝わらない、分かりやすい成功モデルを作らないと駄目だと考えていました。「20万を稼ぐカリスマ主婦」というのは象徴的です。それで興味を持って私もやってみたいという人が後に続いてくれることを期待していました。
もともと20万稼げる人がやっても意味がありませんので、経験がない人を育成して「稼ぐ力」をつけてもらう。このプロジェクトは人材育成のひとつの手段です。
   
――― まだなじみのないクラウドソーシングを市民にどう伝えたか
田鹿氏:奇をてらった特別な告知をしたわけではありません。クラウドソーシングとはという説明を付けて、募集人数は3名、市のホームページで募集しました。
   
﨑田市長:今回チャレンジする人は少人数でもいいと考えていました。ヒーロー・ヒロインを生むことが大事で、「20万円稼げたよ」「どうやって?」というところからクラウドソーシングに興味を持ってもらうのがねらいでした。
     
クラウドソーシングをわかりやすく言いたいときは、「昔は針の内職だったけど、今は内職をパソコンでできるんですよ」と言うと伝わります。そこで興味を持ってくれた人にはきちんと仕組みを説明します。
   
田鹿氏:そもそも市長も最初は「クラウドソーイング」と言っていましたね。これは内緒ですが(笑)。
   
――― 初めてクラウドソーシングに挑戦した参加者へのサポートとは
田鹿氏:応募してこられたのは8割が女性でした。その中である程度のパソコンのスキルのある方、時間のある方を選ばせていただきました。
クラウドワークスさんには遠隔サポートで、わからないことがあればチャットや電話で質問できる環境を用意していただきましたし、私も自宅に伺ったり、カフェで声をかけたりもしました。
皆さんのスキルにあった仕事から始めていただきましたが、いきなり稼げるわけではありません。最初の「もう少し頑張ろう」というモチベーションを支えることが必要でした。たとえば「こんなの1時間じゃできない」と自信を失くしているときには、同じ作業をやって見せたりもしました。
   
またたとえば、主婦の方には1日に何度もメールチェックする習慣はありません。クライアントからのメールにはすぐに返事をしましょうというように、仕事をするうえでの意識を少しずつ変えていくことも大事でした。
最初はおすすめされた案件から選んでいたようでしたが、半年くらいすると自分で仕事を見つけていた方もいました。20万円には届かないとしても、「家賃分になった」とおっしゃっていた方もいて、それぞれに目的意識を持たれたと思います。
   
――― プロジェクトの成果をどう評価しているか
﨑田市長:行政としても参加した皆さんも、真剣に20万円を目指して挑戦しました。20万円稼げるんだったらやってみようと思って始めていただいて、現実として厳しかったというのは、それはそれでいいと思っています。
その試行錯誤が地方創生の取り組みの現実で、そこから我々はまた次のステップを考えています。
   
田鹿氏:ひとつの成果として、1人の方は生活費のためにというところから始めてスイッチが入り、かなり頑張って仕事をされました。ちょうど企業誘致で日南市に進出したITベンチャーがあり、ここではタイピングスキルがとても大事なんですが、その方の仕事が認められて正社員として雇用されることになりました。  
 
進出企業にとっては、そこにいい人材がいるかどうかは不安要素ですが、日南市はクラウドソーシングを積極的に取り入れている、そうすると同じ人口5万人の他の自治体と比較したときに、スキルの高い人材がいるのでは、仕事のやり方を知っているのではという期待を持ってもらえます。
   
﨑田市長:そういう意味で今回のプロジェクトは個人としても成功だし、自治体としても成功だと思っています。クラウドワークスさんと組んだことで「日南市は柔軟だ」と思ってもらい、進出する企業が出てきます。そうなると地元の人材を正社員として雇用したいと思われるレベルまで上げておくということが重要で、クラウドソーシングを通じて人材が育っていたからこそ誘致にも成功したと考えています。
   
   
③コワーキングスペースの発信力
   
――― 全国初・公設のコワーキングスペースの効果とは   
﨑田市長:正直に言うと、当初は渋谷のコワーキングスペースみたいなものをイメージして立ち上げました。IT関連の仕事をする方たちが自由に使うような場所です。しかし実際は日南市にそういう人はあまりいなかった。そんなときにクラウドワークスさんと連携したことで、都会のコワーキングスペースとは違う、人材育成の拠点になりました。市民向けの講座をやったりもしています。

市内にこういう拠点ができたことには大きな意味がありました。クラウドソーシングのような働き方ができるというのをなんとなくニュースや新聞で見たというだけでなく、そういう施設があって拠点があると、わかりやすく「旗」が立ったということが市民に見えます。
さらに外の企業に対しては、日南市にはコワーキングスペースがあるんだ、そういうことに理解のある自治体なんだというPRにもなります。内・外どちらにも効果はありますが、外側への効果の方が大きかったかもしれません。

――― 対外的な効果はどう表れているか
﨑田市長:最近の新たな展開として、東京の大手企業から来た方たちにも使ってもらっています。
地方は「課題最先端地域」とも言われていて、東京がいずれ迎えるであろう超高齢化社会だったり、あるいは他の地方の課題を解決するヒントだったり、企業にとって将来的なビジネスチャンスにつながる何かがあるかもしれない。日南市は色々な企業と組んでいるということで、口コミのようにして色々な企業が来てくれるようになりました。
東京からそういった企業の方が来ると、一週間くらいは滞在します。彼らは普段の仕事も持ってくるわけですが、そこでコワーキングスペースを仕事場として使ってもらいます。屋外で計画していたことが雨で中止になっても、そこで仕事ができるので時間が無駄にならなかったと言ってもらっています。
コワーキングスペースが企業と協業の拠点にもなっているわけです。
   
   
④日南市スタイルで続ける挑戦
   
――― 企業との協業を通じて起きている変化とは
﨑田市長:今回のプロジェクトはクラウドワークスさんにとっても初めての取り組みだったので、やってみて見えたコストや課題があると聞いています。それが他の自治体がやりたいというときの前例になっていて、より進化したものを提案されていると。これはお聞きして新鮮でした。日南市は常にゼロから始めますが、これは田鹿がいるからできたことです。全く違う企業の言葉と行政の言葉を、通訳して橋渡ししてくれています。
   
ただ最近は田鹿なしでも動きが出てきて、大きな進歩だと思っています。
つい先日発表した、誘致した企業と組んだ遠隔医療のプロジェクトは地域医療対策室というところが担当しています。無医地区では患者さんが医師のいるところまで行くのは現実的ではありません。これまでは巡回診療で対応していましたが、自治体として予算の制約がありますし医師不足の問題もありました。
このプロジェクトにはいくつかねらいがあって、まずは巡回診療の課題の解決、将来的にはIoTを利用して血圧計などからデータを飛ばしたり、遠隔医療で医療の質を上げていくことを目指しています。
   
こうして企業と組んで課題を解決することは、田鹿一人の仕事ではありません。行政の職員の段取りや説明能力などのスキルは素晴らしいものがあって、それと民間の経験との組み合わせが重要です。だからマーケティング専門官だけでなく、職員を3人を配置して「マーケティング推進室」も設置しています。推進室のスキルは上がってきていますし、今回は全く別の課がやったということで確実に浸透していると思います。
   
――― 今後考えている展開とは
﨑田市長:ある雑誌で日南市は「ベンチャー自治体」と書かれましたが、最近は自分たちでもそう思っています。これからも色々な取り組みを積極的にやっていきます。まだ発表していない新しいプロジェクトですが、東京出張の空き時間に自分でベンチャー企業に行って打ち合わせをし、それを持ち帰って調整し実現できることになりました。高齢者が収入を得られ、子育て中の家族を助けるような取り組みです。おじいちゃん・おばあちゃんには必要とされていると感じてもらえ、介護予防・認知症予防にもつなげられたらと思っています。
   
新しい技術を取り入れるという意味では農業の分野で進めていることがあって、熟練農家さんの技術を見える化して伝承するという取り組みです。
例えばマンゴーの摘果の技術だと、どの実を切ればいいかは熟練の技術です。その技術を得るのに10年、15年かかるとすると、若い人が始めるにはハードルが高い。熟練者の視線をカメラで捉えてデータ化する、それを学べる教材を作ることなどを考えています。慶応大学や理化学研究所などと組んで進めています。さらにその先には、これを知的財産としてどう守っていくかも重要だと思っています。
   

――― 最後に。大切にしている言葉や理念とは
﨑田市長:日南市としてテーマにしているのが「創客創人(そうきゃくそうじん)」です。
就任した当初、市の総合計画のコンセプトを考えるため住民の皆さんに集まっていただいてワークショップを実施しました。そこに参加した市民から出た言葉です。
   
はじめは日南市の強み・良いところは何かを考えたのですが、出てきたのはどこの地方でもあるような事がらでした。それで歴史に立ち返ってみようと。日南市はもともと飫肥藩です。隣の薩摩の脅威を感じながら、小さいけれど280年間上手く生き抜いてきました。
小さい藩ですが家臣は多いので経済政策に力を入れ、教育にも力を入れた。これが今の日南市の強みにつながります。今あるものの中から価値を見つけてお客を創り出し、そのお客を幸せにする人財を育てる、それが「創客創人」です。
   
これを市民の方にどう伝えるかを考えて創客創人のコンセプト映像も作りました。市の総合計画を発表したシンポジウムでこの映像を流しましたが、これで高校生の心に火をつけることできた。日南市って凄いんだ、格好いいんだと感じてもらえたと思います。高校生が自分たちにできる「創客創人」を考えて政策提言もしてくれるようになりました。今年は市のオープンデータを使って研究してもらうことも考えています。
「創客創人」を旗印に、色々なことが動き出している実感があります。
   
   
失敗を恐れず、次々と新しい挑戦を続ける日南市。
これからも先進的な取り組みが注目されます。
   
﨑田市長、田鹿様、ご協力ありがとうございました。
   
   
   
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